ステンレス鋼の消磁(脱磁)について

ステンレスの磁性

磁石に吸着しないステンレス、吸着するステンレス

「ステンレスの消磁を行いたい」とお問い合わせを頂く事があります。

ステンレスの磁化イメージ

フェライト系ステンレス(SUS430等)は磁性があり、磁石に吸着します。お問い合わせの多くは非磁性であるオーステナイト系ステンレス(SUS304等)が磁性をもってしまい、消磁を行いたいという内容です。

オーステナイト系ステンレスは加工を行う際の応力が原因で内部結晶構造に変化が生じ、材料の一部分が磁性ありの結晶構造になってしまう場合があります。

材料の内部結晶構造が変化してしまった場合、磁気の作用を応用した消磁方法では磁性ありに変化してしまった結晶構造を再び非磁性の性質に改善する事は出来ません。 現在のところ最も有効な対処方法は熱処理です。対象物に適切な熱処理を行う事によって変化してしまった結晶構造を元通りにする事が可能になります。

大変お手数ですが熱処理につきましては専門知識のあるメーカーに依頼していただけます様お願いいたします。弊社は磁気応用分野を専門としており、熱処理に対しての知識、設備がありません。お役に立てずに申し訳御座いません。

磁石に吸着する特性のステンレス鋼(フェライト系又はマルテンサイト系)は鉄材と同様に磁気の作用で消磁を行う事が可能です。脱磁、消磁、減磁装置並びに関連機器をご参照ください。


ステンレス鋼の分類

磁性 磁性あり 磁性なし
結晶構造 体心立方格子
体心立方格子イメージ
結晶構造の模式図
面心立方格子
面心立方格子イメージ
結晶構造の模式図
金属組織 マルテンサイト フェライト オーステナイト
代表鋼種 SUS410 SUS430 SUS304

ステンレス鋼は上表にあります金属組織の他にオーステナイト・フェライト系(代表鋼種 SUS329J1)とマルテンサイト系析出硬化型(代表鋼種 SUS630)がありますがいずれも磁性有りです。ステンレスというと非磁性のイメージがありますが、唯一非磁性なのは面心立方格子の結晶構造をもつオーステナイトのみです。

前記いたしましたがオーステナイト系ステンレスは曲げや絞りなどの冷間加工を加えると加工部分の金属組織がマルテンサイト組織に変形し、その結果磁性ありになってしまう場合があります。

磁性有りに変化してしまったオーステナイト系ステンレスを再び磁性無しの結晶構造に戻すには熱処理が最も有効な方法です。適温に加熱し、適切な加熱時間を保持することで加工の際に生じた内部応力の除去など組織変態の改善を行う事が可能になります。

熱処理が不適切ですとステンレス鋼の特色である耐食性が低下してしまう場合がありますので専門知識のあるメーカーに依頼していただけます様お願いいたします。弊社は磁気応用分野を専門としており、熱処理に対しての知識、設備がありません。ご了承いただけます様お願いいたします。

オーステナイト系ステンレスの代表として鋼種SUS304がありますが、僅かな磁性も嫌うデリケートな部品として製作する場合、SUS304よりもオーステナイト相が安定し、組織がマルテンサイト組織に変形しにくい鋼種も存在します。鋼種SUS305又はSUS316が前記に該当します。加工後に熱処理を行う事が出来ない場合等は、予め安定した非磁性を維持出来る(加工等で変質しない)鋼種を使用することをご推奨いたします。

金属の結晶構造及び磁性について(以下から補足です)

元素の状態で強磁性、合金の状態で強磁性

常温で磁石に吸着する強磁性体元素はFe(鉄),Ni(ニッケル),Co(コバルト)です。(厳密には希土類金属のGd(ガドリニウム)があり4元素です。)

非磁性であるオーステナイト系ステンレス鋼はFe-Cr-Ni系合金であり、磁性ありのマルテンサイト系ステンレス鋼はFe-Cr系合金です。(Cr=クロム) 強磁性であるFe,Ni,を含む合金であるオーステナイト系ステンレス鋼が非磁性なのは結晶構造(面心立方格子)によるものです。(なぜ結晶構造の違いにより非磁性になるのかはここでは省略させていただきます。)

逆に元素の状態で非磁性のMn(マンガン)とAl(アルミ)の合金である MnAl(マンガンアルミ)磁石は強磁性体です。

また、物質の温度によっても磁性は変化します。強磁性体がその温度以上では強磁性の性質が失われる温度をキュリー温度といいます。

以上物質の磁性につきましてご説明させていただきましたが、非常に複雑です。物質の磁性は構成する元素の種類、割合、結晶構造、そして温度が関係しています。


純鉄の結晶構造の変態

以下図はご参考までに純鉄の結晶構造の変態及びキュリー温度を図化したものです。鉄材は温度により結晶構造が変化し、770℃のキュリー温度以上になると常磁性となり磁性が無くなってしまいます。結晶構造が変化するのと鉄材が強磁性体で無くなる温度が一致していれば、磁性の有無は結晶構造によるもと簡単に説明できるのですが、磁性の有無はより複雑な様です。

結晶構造解析が未発達だった時代では770~911℃の温度領域をβ鉄としていました。現在ではα鉄とβ鉄の結晶構造は同じである事が判明した為、β鉄という用語は用いられなくなりました。

常温状態での鉄材、磁石の磁化につきましては物質の着磁(磁化)の原理をご参照ください。


純鉄の結晶構造変態

磁気応用製品の製造
東洋磁気工業株式会社

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